銀の魔術師と孤独の影
13.目覚め 01仕方なく補習のため登校してきた夏葵は校門をくぐったところで足を止めた。
――違和感。
――微弱ながら構地内に残る呪力の残滓。
かすかなそれは夏葵が注意を向けるとすぐに霧散した。
「なーつーきー、立ち止まってないで行こー」
「……ああ」
昇降口で叫んでいる香葵ところに足を向けながら、夏葵は周囲を注意深く観察する。取り立てて変化はなかったが、何だろう。
最近立て続けにみている夢と言い、夏葵はよくないものを覚えて目を眇めた。
教室の中には人だかりがあった。
「お、さぼらないできたんだ」
教室の後ろのほうに席があるあかりは、冷たい目で人だかりを眺めていたが夏葵に気がつくと首をひねっってこちらを向いた。
「あれは何だ?」
「利。みんなにあの手この手で化学を教えられている図」
あかりと夏葵が化学の指導を拒否すると、こういうことになるらしい。
「もう30分くらいやってるけど、まだ2問しか解けてないって」
みんな優しいわよねー、涙が出るくらい美しい友情だわー、とあかりは冷ややかな声で言う。
「声が冷ややかだぞ」
「みんなに教えてもらって2問しか解けないなら教えなくったって大して変わらないわよ。どうせ提出までに全部できなくて残り半分は真っ赤よ」
「いつもか?」
「いつもよ」
あかりは当然とばかりに大きくうなずいた。
「あんなもの、ちゃちゃっとやっちゃえばいいものを。夏葵だってそんなにかかんないでしょ?」
「ああ。今日明日には」
「でしょー。わたしは今日の自習でラスト」
あかりは軽く鞄をたたいた。薄い鞄には、おそらく課題とルーズリーフくらいのものしかはいっていないのだろう。
「それはそうと、何か浮かない顔してたけど。また夢でも見たわけ?」
「……ああ」