銀の魔術師と孤独の影

11.プロローグ 03
「成績なんか開示されても、いつも同じじゃ感慨も何もないわよねー」
どさりと弁当包みを机に放ったあかりは実にどうでもよさそうに言った。
「それはお前、いつも順位同じだからだろう」
「そうよ。敵がいない状況ってつまらないものよ」
あかりは夏葵の目の前で足を投げ出していった。
「利もさあ、たまには頑張って私のこと抜いてみなって」
「お前がミスしてくれるなら頑張るよ」
利は椅子を引いて座った。その表情は呆れている。あかりがミスをして利に抜かせるなんて思っているのだ。
まあ、実際そうだろうが。
「まあそれに、夏葵がいるから満点の取り甲斐――や、張り合い甲斐があるから」
そういうとあかりは軽く笑った。
「……って、夏葵。やっぱり昼の用意しないんだ」
「んー……別に食べなくても持つし、食べたいとも特別思わない」
最近この3人は昼休みに同じ机を囲んでいるが、夏葵が昼食の用意をするのは週の半分ほどである。
夏葵は抜きなれているせいで気にならないが、周りの気が引ける、とあかりがしょっちゅう言うので、そんなものかと思っている。
「いーよ、あげる」
といって、あかりが抜く日もあるのだが。持ってくる分には持ってくるがたべるつもりはないようだ。

まあ、この後にサボる日かろくな授業のない日の傾向だが。
別に夏葵も欲しいわけではないので、結局二人で気が向いたらつつく程度である。利はその隣で弁当をがっついているが。
今日もそういう日だ。この後に控えているのは集会である。
「冬休みかあ……。補習と、課題と、バイトと――」
あかりは面倒そうに指を折る。明日から冬休みという体裁である。
「化学の補習はないらしいな」
ちらりと横を見やると利が押し黙った。
「残念だねえ、利。課題に化学はあるのに――自力で頑張って」
「そうそう。苦労してこそ身に着くもの」
「そんなぁ。凪は暇なんじゃないのか?」
世にも情けない声で利がすがる。
「暇だよ。暇だけど?」
「暇ならいいじゃん」
「調べたいことあってな」
ちらりと周囲を見る。今日の教室は人が多い。
その様子を見た二人は納得した顔をした。



その時の3人の顔は――魔術師の顔だった。