銀の魔術師と孤独の影
9.その決勝は誰がために 03内心、複雑だった。
水面下での暗躍合戦にしても、三者が対峙激突したにしても、どちらかに勝敗がつくはずだったのに。
香葵の乱入は全く考えていなかった。そもそも香葵が学校にいるとも思わなかった。――そのうえ気づくなんて。
香葵が気付いたのは恐らく、汐崎あかりが結界を破った時だろう。
無表情にスニーカーをつっかけて昇降口を出る。
外はもう暗かった。
静まり返った帰り道で、夏葵は携帯を取り出した。
忌々しい数字の列から相手を呼び出す。
『……ずいぶん遅かったじゃないか』
「慎重に事を運んだので」
夏葵はそうしれっと言うと、いきさつをざっと話した。
調査から始まり、地元の魔術師の二人、魔法の実践……。
『後で書類にしておけ。詳しく見よう』
夏葵はひっそりとため息をついた。この書類が面倒なのだが仕方ない。
「この結晶は書類と一緒でも?」
『今週中ならな』
「今週中って……あと3日ですが」
『3日もあればできるだろう』
余計な雑事がなければ、確かにできる。
「……わかりました。切りますよ」
『その結晶がなんの用途に使われるか聞かないのか?』
携帯越しの相手の声はかすかにだが笑っている。
「俺が気にかけるようなことでもないようですから興味ありません」
夏葵はそう言うと、今度こそ通話を切った。
「俺にとってはどうでもいいことなんだよ、そんなこと」