銀の魔術師と孤独の影
9.その決勝は誰がために 02香葵が緩慢に振り返った。
「あ……、うん」
香葵はふらふらとアルミ片が散らばっているところに行き、ひざまづく。
あかりはそれを尻目にとらえながら、床に刺しっぱなしになっている画鋲をひとつひとつ抜いていく。
カチャ…………カチャ…………
画鋲を全部抜き終えたあかりは、ステージ袖のごみ箱に画鋲を全部捨てた。そのゴミ箱を香葵のところに持っていく。
「……ありがと」
ざらざらと音を立てて、香葵の手のひらからアルミニウム片が崩れる。
今度はふたりでアルミニウム片を拾う。
異様に静かな中、香葵が「……ごめん」とぽつりと呟いた。
「何が?」
「夏葵のこと」
「……ん、ああ」
なんだそのことか、とあかりは思った。
無視することもできたはずだが、「怪しいから」首を突っ込んだのは自分たちだ。
そこに謝られる理由はないが、香葵にとっては「実の兄がしでかしたこと」に対して誤らずにはいられないのだろう。
実際、香葵はそんな表情をしていた。
「別にいいよ。悪いことされたなんて思ってないから」
最後のひと欠片を拾い、ごみ箱に投げ込む。
「首突っ込んだんだから、この程度で済んだ方がまあ、ねえ……」
香葵が乱入してこなければ、どうなっていたことか、という状況であったことは事実である。
「……ううん。……俺、夏葵が何してたかも知らなかったから」
知っていたなら、香葵が止めた事はあかりでも想像がついた。だから言わなかったのだろう。そもそも魔術師とはそんなものだ。あかりだって、弟には何も言っていない。
「汐崎さん……。気にしないんだったら、なにが起きていたか教えてほしいんだけど、いいかな」
あかりには気にする要素はないが、どこから話そうか。
ごみ箱を前にして、あかりは首をかしげた。