銀の魔術師と孤独の影
9.その決勝は誰がために 01扉が開いた音で、第三体育館に静寂が訪れた。
体育館の入口には、息を切らせた香葵。
「香葵……」
目と鼻の先の夏葵が口の中で小さく呟いた。
その表情は「何しに来た」と言っているかのようだ。
香葵の目は夏葵、あかり、利と移っていく。そして最後に、床にばらまかれたアルミニウム片。
「――夏葵!!」
その声は、明らかに夏葵のことを非難していた。
あがった息を飲み込み、香葵は夏葵とあかりの方に向かってくる。
その途中、ぽつりと夏葵が呟いた。
「終わった、な……」
あかりははっとして夏葵の手の内を見た。
握りこまれた手の中から、薄赤の結晶が垣間見える。
香葵の登場で、夏葵の術のことをすっかり忘れていたが、結晶が終わってしまったのだろう。
夏葵は香葵のことなどどうでもいという風に、床の魔法陣を引っぺがした。
たたみ、鞄も拾う。
「夏葵!!なんで――」
すぐそばまで来た香葵を、夏葵は無視した。
そのまま踵を返す。
誰の言葉もないまま、夏葵は第三体育館を去った。
夏葵が去った後の体育館は沈黙が続いていたが、仕方なしにあかりは利を振り返った。
「利、あんた血拭きな」
「あ……ああ、そうだな」
アルミニウム片をどうしたらいいかと思いながら、今度は香葵を見た。
香葵は、夏葵が立ち去った時のままの姿勢でいる。その手がきつく握られた。
「夏葵……っ」
声かけても大丈夫だろうとは思うが、兄弟間の隔絶を見たあかりも気分が沈む。
「凪弟、そこらへんのアルミ片ひろって」
香葵はしばらくそうしていたが、やがて顔を上げた。
「…………うん」