銀の魔術師と孤独の影

8.その扉が開くとき 07
弧を描いてあかりの正面十数メートル先の床に落ちたチップから、怒涛の水流と意志を持つように動き成長する棘が溢れだした。
先にあかりのところまで到達した水流が、重力を無視してあかりの両足に絡みついた。次いで棘が夏葵とあかりの間を遮り、あかりに向かって芽吹く。
そのうちの一本を叩き掃おうとした矢先だった。



「うわぁぁあぁぁっ!」
――背後で破裂音と、利の悲鳴。



棘を払いのけ、体をひねって利を視界に収める。
あかりと利の間――利に近い方に夏葵が投げたであろうボールの残骸と、無数のアルミニウム片。
利の顔や首筋には、アルミニウム片で切ったのだろう赤い筋があり、服はそれ以上の被害をこうむっていた。

利の結界をすり抜けて。

下手したら――当たり所が悪ければ、失明してた。
ぞっとしたものが背筋を駆け抜ける。
これは――恐怖か、怒りか?
あかりは自分で判別できない。感情の奔流が強烈過ぎた。
「――んのやろぉっ!!」
感情の奔流に身を任せるままにあかりは夏葵に向かった。

棘があかりを絡め取ろうとするが、もはや払いのけることもない。
あかりの視界からは、棘も水の流れも――ただ凪夏葵を除いて――障害など何もなく感じた。
分厚くそそり立つ棘の障壁を助走だけで飛び越える。
正眼約2メートル先には、ポケットからナイフを引き抜いた凪夏葵。



互いに前に出て距離が詰まる。
残り約1メートル。



――激突。






「やめろ―――――――――――――――っ!」
それを実感する一瞬の差で、体育館のドアがけたたましく開いた。