銀の魔術師と孤独の影

8.その扉が開くとき 06
ルーンを刻んだチップが床に落ちた。
発動を簡易化した魔術は繋ぎがうまくいかないのが難点だ。
この0.数秒の合間に汐崎あかりは引き離された分を取り戻そうと来る。
矢をかわしきった反射といい、戦闘特化型の魔術師としての才覚はけちのつけようがないほどずば抜けている。

そうであればこそ――こんな時はどうする?
今、夏葵はポケットから取り出したものともう一つ、掌に隠して武器を取り出した。
一方は、やはり簡易化したルーンのチップだが、より強く働くようにチップを作るにあたって水微光石を練りこんである。――汐崎あかりに対しての魔術だ。
もう一方は、錬金術だけで作った衝撃による破裂機能付きのボールである。中には鋭利なアルミニウム片を詰めてあるが、魔術的要素が一切ないため――絶対結界に守られた浅井利に対する凶器になる。

さあ、どうする?

夏葵は心の中で二人に問いかける。
ルーンのチップを爪先で弾いた。
回転がかかり両面を見せつけながらくるくると虚空を切る。その両面には、先ほどとは違い複数の複雑な文字。



「船人、わきかえるもの、汝の力は泉にあり!されば猛る棘と共にその道を断て!」
言いきると同時に、汐崎あかりのはるか向こうに、掌に隠したボールを投げた。