銀の魔術師と孤独の影
8.その扉が開くとき 05凪夏葵の呪文を聞いた瞬間、嫌な予感がした。
――弓、とは。
あかりは本能的に身体を右へ投げ出した。
視界が反転する。
その途中の一瞬で、あかりが先ほどまでいた床で何かが跳ねた。
床に激突したそれは微細に砕け散り、ちり一つ残さず消える。
それも、一度では終わらなかった。二度、三度、と間隔をあけて次々と連射される。
これが、さっき夏葵が投げたチップ一つ分の威力だとしたら――あかりの背筋に冷たいものがおりた。ばらまかれたら確実に死ぬ。
躊躇なんかしていなくても、一瞬の判断を間違えれば夏葵はすかさず殺しに来るだろう。
すばやく連射された氷の矢をかわすと、こんどはかわしたところを狙って撃ってきた。
舌打ちする暇すらない。木刀で弾くか――
判断の暇すらなく、氷の矢はあかりの首筋に迫った。
「遣る罪は在らじと祓へ給い清め給うことを」
横合いから突然、大量の紙片と一本の榊の枝が投げられた。――利か。
一時的とはいえ、強烈な結界を放ち5本の矢を弾いた。
1本逃した、というのは遠距離からの後方支援では酷かもしれない。
とっさに木刀で弾き飛ばし減速はしたものの、欠片があかりの髪数本と薄皮一枚を持っていった。
夏葵が次の手を打つのかポケットから何かを取り出した。
虚空にあったチップが効力を失い床に落ちる。
氷の連射から逃れ回るうちに夏葵との距離が開いていた。――今の一瞬の間に詰めないと。
あかりは前に踏み出したが、嫌な予感は消えなかった。