銀の魔術師と孤独の影
8.その扉が開くとき 04――体育館の床に円を描くように撒かれた無色の粉、あれはいったい……。
「科戸の風の天の八重雲を拭き放つ風の如く、朝の御霧夕の御霧を朝風夕風の吹き掃う事の如く――」
古語独特の韻を踏んだ言葉づかいは――
夏葵は次の手を考えながら目を眇めた。
浅井利までの魔術的な流れが遮断される。――神道の絶対結界。
――あの粉は塩か!
いわゆるお清めの塩、というやつだ。神道では主要な触媒のひとつである。
あの触媒で囲われた部分は絶対結界の中だ。浅井利はこれから先、攻撃するのが難しくなる。
結晶が最終固型化に入った。正念場はあと十秒前後。
浅井利が神道魔術を使うなら汐崎あかりもおそらくその系列魔術でくるだろう。
だが、あの木刀は一体。
夏葵は自分の魔術知識から思い当たる節を見つけた。防戦が主な神道には『神楽』という戦闘魔術がある。
そもそも武術は魔術の一形態にも数えられ、魔術師に物理的な攻撃を加えるのに非常に有利な手段だ。
つまり汐崎あかりは、戦闘特化型魔術師、ということだ。古今東西をみると別段珍しいことではない。
今回恐れるのは結晶を叩き壊される可能性だ。戦闘特化型の魔術師は平気でやる。
そのためには近づけさせないための攻撃と防御。
夏葵はポケットの中から薄っぺらいチップを取り出した。アルミ缶を細工して作った消耗品である。――その両面には、別々の文字が各一で刻まれている。
それをひとつ、宙に弾いた。
「戦の父、禍を引き起こすもの、汝が手にありしは氷の弓なり!されば我が敵を滅ぼせ!」