銀の魔術師と孤独の影

8.その扉が開くとき 03
体育館内に炎の旋風が起こった。
ぎょっとしてあかりは身を伏せる。
利も床を転がって炎のかかる圏内から退避したようだ。
さっきばらまいた粉とあの短い呪文――要素魔術だ。
――これが武器か。
厄介さに目を眇めながらあかりは床を蹴った。



要素魔術は古今東西、魔術師に広く使われている基礎魔術の一形態である。
その魔術は多岐にわたり、組み合わせやアレンジ次第で如何様にも変わる珍しい魔術である。
難点は費用が高くつくことくらいだ。それ以外さえクリアすれば――傾向の違うあかりや利でさえ使える魔術だ。
だが、この規模はあり得ない。
ばらまいた粉――錬金術によって作られる人工石のうちのひとつ、炎輝観石――になにか仕掛けでもしたか、何かを混ぜてまいたか……そのうえ床や天井を焦がさない制御。
至近距離に近づけば近づくほど危険になる。迂闊に近づけない。
――せめて、射程距離内には入れれば……!
神楽、武術の類の魔術の一形態を得意とするあかりに勝ち目は見えてくる。
タイムリミットは呪力が結晶するまで。
長くも短くもない時間。それまで秒単位の攻防戦が入り乱れる。

「利!!」
「ああ!!」

炎が治まった体育館に、利もまた粉をまいた。