銀の魔術師と孤独の影
8.その扉が開くとき 02夏葵の中から一切の躊躇が消えた。
もともと魔術師という生き物は冷徹極まりないものである。
どんな場合であっても、魔術の邪魔が入ったら生死を問わず排除する。
誰に対しても容赦なく。その結果、『氷霜の魔術師』と呼ばれるようになった夏葵だ。
たかがクラスメイトになった魔術師ごときに情がふれることはない。
たとえその一流の才覚が惜しくはあっても、だ。
手中の結晶はまだ完全に固まりきっているわけではない。
術を続行しながら、対抗、という難しい両立になる。
だが夏葵の中に不安はない。
先手を打ったのは夏葵だった。
まだ二人が体育館の半ばまで到達していないうちに夏葵は動いた。
いつも最低限度の装備はして歩いている。そのなかのひとつを夏葵はためらいもなく使った。
空中に粒の小さな粉をばらまく。
夏葵が最も得意とする戦闘魔術のカードを切った。
「此処に蘇りしは古の火炎なり、有れ!!」