銀の魔術師と孤独の影

7.対抗 02
「何だこれ……」
先を行っていた利の足が鈍った。
第三体育館の扉までの空気がひどく重い。
飛行機が離陸するときのように重圧が体にかかる。
「うっわ、何これ……さっきまでこんなのなかったのに……」
あかりの背に嫌な汗が流れる。
この空気のせいか、体育館の廊下はいやに静かだ。
最終下校時刻までまだ時間があるのに、ここまで静かなのは異常だ。
重い体を引きずるように扉まで行き着く。
「これだけの力を持っていて、それで見せないなんて、一流ね……」
認めざるを得ない事実だ。
扉に手をかけ引く。
利は眉をひそめた。開かない。
扉の隙間を覗くが、鍵は掛かっていないようだ。そもそも学校の扉は全て、外鍵である。

「ねえ、これじゃない?」
扉の隙間を覗いていたあかりは一点を指差した。
逆光でよくわからないが、布か紙のような薄く透けるものがかかっている。
扉越しに手をかざすと強い負の呪力をまとっていることが分かる。だがそれがわかっただけでもあかりの体力が削られた。
「利、あんたカッター持って歩いてなかったけ?これ切るわよ」
普通に話しているだけで息が上がる。どれだけ強力な魔術を使っているのかは知らないが、これを排除しないことには始まらない。指をくわえてみているのも癪だ。
「持ってくる」
利が身をひるがえす。行きより戻りのほうが断然足取りが速い。
「くそっ」
奨学金がかかっていては他の窓やガラスも破れない。奨学金取り上げか停学処分は免れない。
そんなもの必要なかったら壁でなんでも力任せに抜いたのに。
「くそっ……」
あかりは力なく扉を突いた。

いつもは立てつけの悪い扉が、今日は音ひとつ立てなかった。