銀の魔術師と孤独の影
7.対抗 01がらんどうの男子更衣室に侵入したあかりは、身軽にロッカーをよじ登った。
「おー、体育館倉庫って上から見るとこんなんなんだー」
あかりは場違いながらも感嘆の声を上げる。
一言で言うと、汚い。さらに言うと整頓が行き届いていない。あとは掃除が雑で埃っぽい。そもそもここの掃除あるのかどうかが謎だが。
「あかり、口動かしてないでさっさと降りろ」
「だってこんなこともないと体育館倉庫なんて俯瞰できないし」
そう言って、あかりは高さ約2メートルのロッカーの上から飛び降りた。
着地で埃が舞う。
「うわっ……!おいお前何やってんだ!」
ロッカーの上から顔を出した利はとっさに手で顔を覆った。
「奥は想像以上に埃っぽいわね……。利ー、大丈夫ー?」
「……なんとか。これ以上埃舞わせないでくれ」
「移動以外ならね」
利は埃があまり舞わないようにそっと降りてきた。その手にはあかりに頼まれた木刀がある。
「利、そこの脚立スタンバイしておいて」
「オーケー」
あまりガチャつかせないように手で押さえて利は脚立を立てる。その間にあかりは、倉庫の隅にあった机を一つ持ってきた。椅子が無いのは残念だが、最終的には蹴倒すのが見えているので差し支えない。
ノートパソコンを確認すると、発信機の座標は直線距離にして百メートルないところにある。やはり第三体育館のようだ。
「……ん?」
これだ。
至近距離のせいか、以前よりもはっきり感じた。魔術発動の気配。
「……利」
「……ああ」
利が堅い声で返事をした。
「もういくか?」
「ちょっと待って」
あかりは脚立に足をかけた利を制止し、キーボードに指を走らせた。縮尺を最大にする。
おそらく凪夏葵のいる位置は体育館のステージ側だろう。だがそれを確認した時、座標に異変が起きた。
「え……?」
ほぼ2つの点が重なり合っていたが、突然離れた。
およそ2メートル。
「くそっ!発信機ばれたっ!?」
「ああやっぱり……」
あかりはばんっと机を勢いに任せて叩いた。ノートパソコンが撥ねる。
「利行くよ!あんた道具は!?」
「お前に言われた日から常時携行」
「よっしゃ!」
あかりは木刀をひっつかむ。
先にロッカーの上によじ登った利を追った。