銀の魔術師と孤独の影

6.決行 02
夏葵は色合いを見て眉をひそめた。
黄昏時は魔術を行使するのには向いていない。せめてもう少し日が高ければ、と思ってしまう。
加えてもう一つ、嫌な記憶が思い返されそうになる。だが今はそんなものを思い出している場合ではない。
魔法円布を画鋲でとめ、鞄からは次々と必要な小物を出す。
清水を魔法円の何箇所かに垂らし、ポケットに小ぶりの折りたたみナイフを突っ込んだ。
いつもは最後に軽くインセンスを炊くのだが、ライターが出てこない。
鞄をひっかきまわす。
鞄の底をまさぐっていた指先に細長いプラスチックが触れる。――これだ。
引っ張り出すときに教科書を引っ掛けて、床に落ちる。
間から型紙の角が飛び出している。――こんなもの入れたか?
視界の隅にそれを収めながらインセンスを火で焙る。軽く香りが出る程度でいいのでインセンスに火がつかないうちに消して、携帯灰皿に捨てた。

入れた覚えのない型紙が妙に引っ掛かる。
一瞬躊躇して、型紙に触る。

両面確認したが特別何かが書き込まれていないし、魔術が刻まれた術具の類でもない。
――だが、脈絡がない。こんなものを鞄に入れた覚えはこれっぽっちもない。
香葵か、汐崎あかりか、浅井利か……。
後者二人が入れたなら今更魔術を隠したところで手遅れ、といっても過言ではない。監視されていたのだ。
いずれにしても、気付いたのが遅かったとしか言いようがない。

もうどうでもよくなって、夏葵は型紙を投げ捨てた。
手から離れた時点で、夏葵の頭には型紙のことなどない。

魔法円の初起動だ。

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