銀の魔術師と孤独の影

5.暗躍 06
夏葵は油性マーカーのキャップを閉じた。
シミ一つなかった布は今や魔法円が書き込まれた別物に変化している。
息をつき、インクが完全に乾ききるまで椅子に腰かけた。
いつもならこの部屋に詰め込んである道具を漁れば必要な魔法円布はあるものだが、呪力収拾の魔法円布はだいぶ前から傷んでいて、もはや使いものになるレベルではない。
その上、古さ相応に魔法円の組み方も稚拙なので、同じ敷地内に魔術師が出入りするところで使えない。発動時にはっきり分かってしまうのだ。
そのため今回はひと手間かけて、現代魔術師組合の指定魔法円のうち最新型のものを結界その他の機能を持つ魔法円と合成した。



魔法円の形状は、六芒星を中心とする円に、文字で埋め尽くされた円、幾何学的な紋章が複数書かれている円、もはや円とは言えない形をした魔法陣などが複雑に混ざり合っている。
そして布の縁には気配隠蔽の言葉がぐるりと書き込まれている。持ち歩いているだけでばれたらお話にもならない。
それ以前に、夏葵は自分の行動が何であるかを香葵に知られることを恐れる。
薄々感づいているとは思うが、本当に知ってしまったら終わりだ。
最低でも、香葵はキレる。次にその怒りが向かうのは夏葵を小間使いにしている現代魔術師組合。父など親類の耳にも入る可能性が高い。
そんなことになったら、夏葵の秘密がどこから漏れるかわかったものではない。夏葵の秘密を知っているのは香葵だけであって、他の人間は夏葵の能力を都合よく利用しているだけなのだから。
夏葵は自嘲気味に口の端を歪めると、乾いた魔法円布を畳んだ。

――人は皆敵だ。