銀の魔術師と孤独の影

5.暗躍 05
ステージ前で、何食わぬ顔で靴紐を結び直す。その際にさっと床の上に手を滑らせて、盗聴器をステージ下に入れた。
見られた可能性は低いが、どうだろうか。
まあ盗聴器である以上、何かが起こっても音で判別がつくので、夏葵は心配していない。
手元のノートにメモをすると、ノートパソコンに向き直った。
盗聴器で収集した音は、全てここに入ってくるようになっている。
今日は13時で完全下校なので体育館からはこそりとも音は入ってこない。
――今日は様子見だけでいいだろう。
夏葵がそう思って頷くと、部屋のドアがノックされた。香葵だ。
「夏葵ー、古典教えてー」
「担任に聞いてこい。古典教師だろう」
鍵のかかったドア越しに言うと、香葵は「えー」と文句を言った。
「あっきーより夏葵のほうが俺の知能レベルわかってるからわかりやすいのにー」
「俺は忙しい」
その一言で香葵を撃退する。足音が遠ざかった。
それを聞いた夏葵は第二フェーズに移った。



床に薄手の白い布を広げる。
おおよそ正方形になるよう断ち切り、画鋲で床に固定した。
こんなことを続けているせいで床はぼろぼろだが、夏葵は一向に気にしていない。
鍵のかかった机からノートを取り出し、呪力収拾の魔法陣を探し出す。
幾らかページをめくると出てきたそれを床に放ると、夏葵は机の上にあった油性マーカーをとった。