銀の魔術師と孤独の影

5.暗躍 03
――まず何から話したらいいかしら。
あかりは靴紐を結びながらそう考えた。
今日の授業はこの体育で終わりだ。
さりげなく辺りに目を走らせ、凪夏葵を探す。

いた。ステージ傍の夏葵も靴紐を結び直している。
――……?
今何か拾った……いや置いた?
いずれにしてもしっかり調査する必要がありそうだ。
立ち上がりながらあかりはひとつ頷いた。



「勘ぐりすぎじゃないのか?お前」

それまでのことをあかりが主観客観織り交ぜて利に言うとあっさりそう言われた。
「いーやそんなことないね」
「どこからその自信が出てくるんだ」
雑巾を絞るため屈んでいる利の顔はわからないが、嫌そうな顔をしていることだけはあかりはわかった。
「確定事項でしょ。私がこの手のこと言い出して間違ってたことある?」
「お前、俺様すぎる。それに今まで間違ってなかったからってこれからも間違えないという保証はない」
「間違えないわよ。これからってことは今回の件は含まれないでしょ……そんなことはどうでもいいのよ。凪夏葵よ、凪夏葵!」
だからお前が勘ぐりすぎなだけだ、と利は言う。
「あいつが魔術師だっていうことの裏がとれたものわかった。でも魔術の残り香がしたとは言っても、残り香だろう?家でやったままだったのかもしれない」
「ありえない」
顔をあげた利に、あかりは即答した。
「私は魔術師といっても例外だし、うちの一族は神道だから後始末が必要ないからそう油断するのもわかるけど、一般的にそんなことはありえないのよ。
ちょっと勘のいい人や霊感のある人はそれだけで違いに気がつくものよ。まして、私たちみたいに魔術を扱う人間がいつ何時そばにくるかわからない場所に行くなら」
そんなことをしたら、魔術師であることがばれてしまうからだ。
それに、とあかりはたたみ掛けた。
「あんた気が付いてなかったから確信できなかったんだけど、あの日の朝、魔術発動の違和感があったのよ。そのあとに残り香させていたのよ。限りなく黒に近いグレーでしょ」
「でもなあ……」
「あーもーうだうだうだうだと!あんたは考査が近いから化学の勉強に忙しくて関わりたくないってはっきり言いなさいよ!言わないなら問答無用で連れて行く!!ただし言ったら今度の考査で化学のヤマは張らない!!」
「ちょっと待て!それ俺に選択肢がないようなものじゃないか!
窓を拭く手を止めて利が食って掛かる。
「二者択一で示してやったでしょ!調査に参加しないなら勉強時間は山ほどあるからあたしがヤマ張る必要もないっ!!」
「わかった乗った!!」
これでいいんだろ、と利はふてくされた声で言う。利のヤマというものは大概当らないので実際は利の言う通り選択の余地などありはしないのだ。
「そーよそれでいいのよ」
いままで大声をあげて話していたあかりも一転、笑顔になる。
「あんたはそうでなくちゃね。さ、じゃあ本題に入るわよ」
「ってかお前、まだ情報話し切ってなかったのかよ……」
末恐ろしい奴だ、と利が言ったが、あかりは話を切り出した。