銀の魔術師と孤独の影
4+.逆探索 02「起きた?」
空き教室の隅で、あかりは凪夏葵の顔を覗きこんだ。
「廊下で倒れてたからびっくりしたわよ」
そう言うと焦点が合わずぼんやりしていた視線が明確になる。
「お前……汐崎あかり……?」
「あたしが別人に見えるなら眼科と脳ドックに行くことをすすめるわ」
呻くような声にいつもの調子で返事をする。
「ここは……?」
「倫理演習室とか言うらしい空き教室」
凪夏葵が倒れていたところから一番……いや二番目に近い部屋だ。女子更衣室の方が近かったはずだ。
凪夏葵が時計を見上げる。
「今の時間、芸術」
夏葵は確か音楽だったはずだ。
「音楽って映画鑑賞って言う自習じゃなかったっけ」
「確か」
「そういえば何で今日、朝からさぼったの?」
「何となく」
なるほど、とあかりは頷いた。
「いいのか、授業」
「保健室行くって言ってあるから大丈夫」
「そうか」
夏葵はどうでもよさ気に返事をして立ち上がった。軽くふらついたものの問題なさそうだ。
出て行くつもりのようだ。
止める理由はないので好きにさせる。
「もう倒れないでよー」