銀の魔術師と孤独の影

3. 凪夏葵 08
「……もしもし?」
『どうだね? 田舎に移ってからは』
「特別何もありませんが」
可愛いげがないな、と携帯の向こうで男の声が呟く。

『君が移った高校でのことだか……』
ぼそぼそと話す声を店内のBGMに消されないように必死に拾う。
『……ということだ』
「……それで、俺にどうしろと?」
『どうしろ、とは君は馬鹿か? こうしてわざわざ私が連絡を入れたのに』

何様だよ、馬鹿はお前だ、と内心呟く。
「……それで?」
携帯の向こうで聞こえよがしのため息。
『君が始末しろ』
「俺はまだ正員ではないはずですが」
言外に相手を変えろ、と言って見たが効果はなかったようだ。
『たかが伯ごときに拒否権があるとでも思っているのか? 君は普段から不必要な行動も』
「それは俺がよかれと思ってしていることです」
話をさえぎって言うと、携帯の向こうで沈黙が降りた。
『とにかく、この件は君に一任する。侯の命令にはさからうな』
冷徹な命令口調を最後に、通話は一方的に切られた。

明日はオンの日になりそうだ、と思っていると香葵が振り返った。
「夏葵、誰から?」
「別に……もういいだろう。帰るぞ」
「え、ちょっと。何あったの!?」
香葵の問いを振り切り、夏葵は陳列棚の間をすり抜けた。