銀の魔術師と孤独の影
3.凪夏葵 05汐崎あかりと顔を付き合わせていがみ合っている。
「また化学ー?いっつも教えてるじゃん。またー?」
「いや俺わかんねーんだって」
「わかれ!」
「んな無茶な」
「無茶じゃない!」
「……確かに無茶ではないな」
夏葵が呟くと、通路越にいがみ合っていた汐崎あかりと浅井利はぎょっとして振り返る。
「担任から伝言。委員長は昼休みが終わる前に来い、って」
淡々と告げると浅井利は軽く口を開閉してから返事をした。
「あ……そか、サンキュ」
「化学が苦手なのか」
正直意外だった。他の授業はそつなくこなしていたから。
浅井利は虚をつかれた表情をしながらも頷いた。
「そうか、大変だな」
「凪さ、化学得意?」
「そうだな」
「教えてー! あかりに教わるのはもう無理!」
「あっそ」
「別にかまわないが」
夏葵がそう返事をすると浅井利が手を叩いた。
「やった! とりあえず有機と無機から教えて!」
とは言われたものの、浅井利はひどい理科音痴だった。有機と無機どころか基本から仕込まないといけない。そのうえ教えてもすぐ忘れる。
鶏は3歩歩けば忘れるとはいうけれど……。
こいつ1歩も動いてないだろう。
一体どうなっているのか。是非ともその脳内を見てみたい。
――中学からやり直してこい、と言う言葉を飲み込むのにひどく苦労した。