銀の魔術師と孤独の影

2.汐崎あかり 05
「あーお疲れー」
「……」
利の返事がない。元気もない。
六時間目がよりによって化学だったからだ。もはや授業は利のついていけるレベルを遥か遠く越えているのが疲労の最大の理由である。
――他の教科は努力した分伸びるのに、なんでこいつは理科に限って潰滅かねー。
しかも授業後に凪夏葵に聞こうと思っていたのに、香葵が夏葵を連行していった。

「うげ……、兄貴から買い物リストのメールきてる」
昇降口で携帯を開いた利があからさまに嫌な顔をする。
「メニューは何?」
「さあ……?」
キャベツ、鰯、人参、カレー粉、冷凍コロッケ、卵と取り留めもないものが並んでいる。
「あかり、今手持ちどれくらいだ?」
「んー、二千円くらいなら」
「じゃ、買って帰ろーぜ。往復面倒だし」
「オーケー」



「あれ、凪双子じゃね?」
カレー粉を選んでいたあかりは顔をあげた。
惣菜コーナーにいる凪香葵と、冷たい目の夏葵。振り返った香葵が何か言ったようだが、店内放送でさすがに聞こえない。ただ、夏葵は首を横にふった。

「『お前は何がイイ? どれだけ買う?』『俺はいい、いらない』『えー』……ってところかな」
利の絶妙なアフレコ。実際そうだろうが、香葵は一人でどれだけ食べる気だというほどパックに盛っている。
あかりは軽く眉をひそめた。
「太るわよ」
「若いうちは大丈夫だろ、多分」
それもそうね、とあかりはカレー粉に目を戻した。
「そういえば、今日の自習にさあ」
「お前のサボった自習がどうした?」
利のさりげない嫌味は無視して話を続ける。
「凪夏葵と屋上ではちあわせしたんだよねー。サボるのとかちょっと意外」
「まあ、確かにな」
お前と違うし、という嫌味を利は口の中で呟いた。