銀の魔術師と捕縛の糸

2.汐崎あかり 04
利が凪夏葵に化学を習い始めて一週間が過ぎた。
取っ付きにくさはなくなっても浮いていることに変わりはない。馴染もうとする努力もない。
ひとごとにそう考えながら屋上の扉を開けた。この時間は自習なのでサボる気満々だ。次は体育で実技テストなので体力温存とかかこつけて。
「こんな天気のいい日に自習なんかやってらんない……あれ?」

サボり仲間発見。
しかも――凪夏葵。
へーあいつもサボるんだ、などとしみじみそう思っていると凪夏葵が振り向いた。
「あんた……」
「そっちもサボり?」
「あ、ああ……」
「そっか。まあ、こんなにいい天気だと昼寝もしたくなるよね」
「…………なあ」
「何?」
「あんた、狭霧神社の巫女、だよな」

返事をするのに一瞬間ができた。
「え、うん」
でも何で知ってるのか。
地元の人はみんな知っている。町神社である狭霧神社は浅井家中心に経営されている。汐崎家は昔から巫女をしている。
でもこいつどこで知った?
こんな目を引く奴が来ていたら、あかりはまず覚えている。
人に聞いた……はないか。香葵かな?
あかりが首を傾げるなか、凪夏葵は前を向いた。
まあいいや。
あかりは屋上階段の南に回り込む。こんな日にごちゃごちゃ考えことなんかしたくなかった。
屋上の向こう側で、紙をめくる音が聞こえた。