銀の魔術師と孤独の影
2.汐崎あかり 02けだるく廊下をそぞろ歩く。
集会で舟をこいでいたら利の肘鉄を喰らった。利曰く「首席が寝たら示しがつかない」だそうだ。
「この後はLHRで編入生のお披露目、か……」
「わざわざ明桂に編入してくる意図がわからないわよ。狙いは奨学金?」
「お前な……」
あかりのあまりの物言いに利は一歩離れた。
明桂学院は授業料が決して安いとは言えないので、片親や孤児の学費軽減、成績優良者への奨学金制度がある。最大で半額免除、公立高校より安い。あかりと利はこの制度を使用している。
「だってお金は空から降って来ないしー」
「そりゃそうだけど……」
あかりの言い草に困った利の頭越しにスピーカーから軽やかにチャイムが流れる。
「ほら、さっさと教室戻るぞ」
チャイムが鳴ったとは言え、教室はまだ騒がしかった。編入生で浮かれているのかいつもよりうるさい。
「あれ、タミちゃんまだ来てないんだ?」
タミちゃんとは熊のような社会科教師の田宮教諭でありA組の担任だ。
その田宮は利の言葉のすぐ後、本人の後ろに立った。
「浅井!さっさと席に着け!お前たちもむやみやたらに騒ぐな!」
生徒はざわめき、編入生を一目見ようと戸口に目をやるが、大柄な田宮に隠されている、という程度にしかわからない。
田宮は惜しみもせず焦らしもせず、教室に入り、続けて――教室に静寂が訪れた。
ナニ人?あかりの最初の疑問はそこに行き着いた。
伸ばされた銀髪に端正な白皙の美貌の男。――男?
確かに男だ。
だかぱっと見は中性的で判別がつかない。
「えー、もう知っていると思うが今日からの編入になる凪夏葵だ」
「…………」
むっつり押し黙った無表情が好奇心の視線を完全に跳ね返している。
「席はー、一番後ろの席だ。浅井、しばらくの間いろいろとお前に頼む」
「はいはーい」
利が返事をしたことで、やっとクラスの一部が催眠状態から覚める。だがこの様子では午前の授業は話にならないだろう。あかりの心配することではないと思うが。
凪夏葵があかりの斜め後ろに向かうなか、あかりは人ごとだと思ってあくびをした。