神代回顧録
雛 06「あーあ、酷い荒らしだった」
足元のぬかるみに向かって暁はこぼした。
いつの間に落ちたものか、ムラの入口の積み石が焼け焦げていた。
小屋の修復も終り、塩を求めに行った4人も帰ってきて、ムラはいつもどおりに動き始めている。
暁は林の茂みをかき分けているが、まだここはぐっしょり濡れてしまうほどに湿っている。
開けたあそこも、多少ましなだけで同じか。
大きな楠の手前で一つため息をつき、暁は裾を絞った。ぐじゅ、と不快な音と共に雫が落ちる。
あそこに着いたら日だまりでこれを干した方がいいか。
下草の少ない幹回りをそっと経由し、暁はいつもの場所に出た。
下草から水蒸気が立ち上っている。
「はあ…………」
冷え切った岩に腰を下ろす。水蒸気が晴れるまで待つしかなさそうだ。
水蒸気が立ち上る天気だ。日差しの下はぽかぽかと暖かい。
しばらく目を細めて空を眺める。今日もまたきれいな冬晴れだ。
水蒸気が立ち上らなくなると、服は生乾き程度までましになった。
もう昼か、そう思い立ちあがる。
することがないのでまだ戻りはしない。
ふらりと崖に寄った。
下は昨日の荒らしでさらに景色が寂しくなった気がする。
下から風が吹いた。思わず目を閉じる。
轟、と地鳴りがする。
「なんだ――――」
背中から、風。
地面から突き上げるような、衝撃。
視界に映った裸の林と、崖っぷち。
「しまっ――――」
堕ちる――――――――――――――――