神代回顧録

雛 05
外からすさまじい音がする。
まだ夕暮れの時間帯だというのに、空は真っ暗になっている。その合間にちらと神鳴りが覗く。
「早く寝るに限るか、こういう日は」
「そうだね」
そうすれば外を覗き見て観察することもできるし、と胸中で呟く。
「これだけ荒れおると里の外に出ているものが心配だ」
「うん……ちゃんとどこかに入れてるといいんだけど」
囲炉裏に向かいながら、暁は小刀を取りだした。
今日も芋の汁物だ。
「じいちゃん、今日は食べながら寝ちゃだめだよ」
「……む」
こくりこくりと舟を漕ぎ始めたムラ長に釘を刺し、鍋に芋を入れる。
そのまま匙でかき混ぜた。汁は残りなので、味付けは必要ない。
煮えるまで蓋をする。
「今回は誰が行ったの?」
「安曇と木賊と飛鳥に真竹だな」
「木賊連れて行ったから天気悪くなったんじゃないの?」
「かもしれぬな」
雨男なんて連れて行くから、と暁が口をとがらす。
外からは、ばりばりと雲を割る神鳴りが響いている。
「食べて寝るか」
「うん……その方がいいね」
芋はまだ生煮えの気がするが、仕方ない。
蓋を取るとふわりと熱気が辺りに広がった。

床が撥ねた。
暗闇の中で暁は眉を寄せた。
土間の片隅では雨漏りが始まり、酷い風の直後にはぼたぼたと雨水が流れ込み、神鳴りを反射している。
こんな酷い天気は本当に久しぶりだ。
そっと身を起こす。ムラ長が反応するそぶりは――ない。
暁は上掛けを蹴っ飛ばすと、入口にかけ寄った。
風向きからすると、雨風が吹きこんでくるとは思えないが、大丈夫だろうか。
そっと戸を開ける。意外と雨は降っていない。
軒先から曇天の迫る空を見上げる。
ぱり、ぱり、と不穏な音に続き、どん、と叩くような地響きが続く。
同時にばっと光が広がり、地面に影が映る。
人の影。
鳥の影。
蛇の影。
馬の影。
「…………」
一拍遅れて空を見上げるが、暗い曇天に戻った空に、それらを見ることはできない。
――あれが、神筋と異筋。
大きな雨粒が暁の髪を叩く。
またばらばらと雨が降り始めた。