彼岸花の咲く川で

11.帰還のはなし 03
「スーツ……かあ」

澪実は卓から借りた服に袖を通しながら、自分を見下ろした。
初めて着たから違和感がありすぎる。
人の子がスーツ姿なのは初めてだが、その姿に違和感はない。
この差は何だ。生まれか、年か。
澪実はがしがしと頭をぬぐいながら、への字に結んだ口を隠す。
そういえばどこで待てばいいんだろう。
卓は着替えを置いたきり、どこに来いと言いに来ることもなかった。忙しいのだろう。
「とりあえず卓の部屋にでも押しかければ休憩くらいはできるか」
来た道を戻れば、確か行けたよなと澪実は廊下に首を出した。
そこに軽い足音と同時に、卓が声を掛けてきた。
「お、上がったのか」
「ああ、お前は」
「しばらく待ちだな。はー……疲れた」
その声がかすれているように聞こえた。



「お前らなんか飲むか?」
すでに卓自身は水を一気飲みして、卓と人の子を振り返った。
「俺はあとでいいや。寝る……」
澪実は部屋の隅にあった長椅子に倒れ込んだ。眠い。

「何だあれは。逆上せたのか」
「さあ?」

さあって、お前が思いやらなかったから疲れてるんだよ。
澪実はむにゃむにゃとそんなことをこぼすと、今度こそ意識を投げ出した。