彼岸花の咲く川で

9.文目のはなし 02
原始の八咫鴉のところよりもさらに居心地が悪い。

たくさんの面に囲まれているのは、あまりいい気分がしなかった。
人の子もそれは同じらしい。
「入れ替わってるな。趣味が悪いのは変わらないか」
ポイントポイントは芸術的だけど、組み合わせとか色とかなんとからないのか、と人の子は文句を言う。
その通りだ。
嗤い顔なのに、口から血を流している女。
目を吊り上げ、不気味に怒っているのに、角が珍妙な鬼。
一面に謎の浮彫りがされた覆いものらしき面。
片目が潰れているのに、笑顔の武者。
血の涙を流す男は、鼻から下は犬の物で、血を舐めずっている。
一番まともそうなのが、文目が頭に掛けている狐だ。
「何をいっているんですか……ありきたりなものを彫っても価値なんかないでしょう」
「…………」
ちなみに今澪実たちが掛けている椅子は人や動物の手足を模した脚となっている。自作らしい。
机は面を彫っているせいかぼろぼろだが、脚などは蛇が絡み合っている。
これ以上はない悪趣味だ。
「柱や壁にも彫りたいのですが、さすがに寒いので諦めたんですよ。ほら、面積だけはあるので」
「そんなことされたら、ここ、本当に地獄だな」
「そうでしょうかねぇ」
「……そうですよ」
澪実はうなずいた。想像するだけで恐ろしい。
「仕方がないですねぇ……まあ、木屑もあれば温かいのでよしとしましょう」
「燃料だろ?」
「燃料にもなりますねぇ」

文目はそういうと、何やら木の塊を選別し、一つ手に取った。