彼岸花の咲く川で

8.原始の八咫鴉のはなし 02
謎すぎるが、湯があるらしい。
もしかしたら沸かしているのかもしれないが。
出された茶は湯気を立てている。
「さっさと飲まないとすぐに冷えるよ」
原始の八咫鴉はそういうと、あとはしばらく湯呑に向かっていた。
人の子は書付をめくっていて、他には目もくれない。

話が、ない。

原始の八咫鴉は平気なのかもしれないが、澪実は居心地が悪い。
原始の八咫鴉が湯呑を置いた。
しばらく顎に手をやって、何やら考えている。
「そうだ、あのこと知らせておくべきかな――澪実さん」
「はい」
「陛下に文届けてくれない?」
「いいですよ」
原始の八咫鴉はうれしそうに微笑むと、墨をすり始めた。
どうやら文面を考えているらしい。
「時間かかると思うから、文目さんのところとか行ってきたらどうだい?」
一応顔を出してこい、ということか。
もしかして、あまり見られたくない類の内容なのかもしれない。
「わかごもほらほら、紙で遊びはじめない」
原始の八咫鴉は書付を取り上げ、白紙を探し始めた。
「文目のところか……」
どこにいる?と人の子は原始の八咫鴉に訊いた。
「工房じゃないかな。工房にいなかったら部屋で寝てるはずだよ」
「わかった。じゃ」
「お、お邪魔しました」
「うんうん。またねー」