彼岸花の咲く川で
8.原始の八咫鴉のはなし 01「あ、うん。お伺いね。じゃあゆっくりしていってよ」
にこにこにこにこ。
陛下に様子を見て来いと言われた旨を何とか婉曲に言うと、彼はそう答えた。
予想などついてなかったが、それでも予想の斜め上を行っていて、俺は対処できない。
白い面に、髪は不思議な色をしている。
白にも、銀にも、青にも見える。火が映ると赤にも金にも見える。
髪そのものの色が極端に薄いのか。
その髪は長い。編んだり、くくったり結んだりと、かなり無造作に扱っている。
「普段は何をしておられるんですか?」
何もないのに、何をしているんだ。
「普段? 文目さんと話したり――あ、ここの獄吏ね――とか、上とか外見たりね」
「どうやって見ているんですか?」
「鏡とか、きれいに削った氷壁とかで見れるよ。やってみる?」
「いえいえ結構です」
何かよくわからない仕組みや技術があるらしい。
「澪実さんは船頭? それとも陛下付きの文官?」
「船頭です」
「なってからどれくらい?」
「100年と少しです」
「そっか、先は長いね。嫌気が差したら遊びにおいで。わかごももっと遊びにおいで」
棚に向かっている人の子が「遠い」と答えた。
「わかご?」
「若子。名前がないと困るから。あんまり好きじゃないみたいだけど、この呼び方」
それ以前に、人の子はどう呼んでも好きじゃないと昔言っていた気がする。
原始の八咫鴉はふと立ち上がった。
「お茶でも入れようか」