彼岸花の咲く川で

7.地獄のはなし 03
音がした。
人の気配。
氷壁に映る影が揺れるのは、光源が揺れているからか。
火だ。
「澪実、こいつが原始の八咫鴉とか言われてる年寄」
人の子は容赦なくその人物を指差した。
「どっちかっていうと、もう骨とかミイラになってるんだよね」
澪実は氷柱と一体化してる氷壁を回り込んだ。

真ん中に燭があり、火が入っている。
何故だか、ひどく安心した。
木の椅子と木の机。棚には書物と重ねられた大量の紙。
硯と筆が投げ出されている。
「はじめてお目にかかります」
「はい、初めまして」
軽い。ノリが軽い。
「あ、堅苦しい挨拶は飽きてるから普通でいいよ。名前なんて言うの?」
「み、澪実です」
「澪実さんね。うん。私は暁、よろしく」

そう言って、青年とも壮年ともいえる男は笑った。