彼岸花の咲く川で

7.地獄のはなし 02
「雪って、光が届かないところでもやっぱり白いのな」
「そうだな……まあ、中には灯があるだろうし、どこからか光が差しているのかもしれないけど」
さすがに人の子も耳や鼻の頭が冷えて赤くなってきている。
「原子の八咫鴉とか獄吏、寒くないのかな。厚着してるのか?」
「ずっといるから麻痺してる」
なるほど。確かに同じ環境にいればいずれなれるだろう。それが100年単位ともなればなおさらだ。

だんだん道が明るくなってきた。まぶしい。
壁は半分以上が霜に覆われて白と石の縞を作っている。
場合によっては氷の柱だ。
上とは別世界だ。
それに静かだ。
澪実と人の子が立てる音以外には認知できない。
澪実は思わず目を伏せた。
道から出る。
白一色の世界は光がなくてもまぶしい。
人の子も立ち止まっているのか、息づかいしか聞こえない。
冷気と無音の世界に、鼓膜が痛んだ。



慣れてくると、氷なので白一色ではなかった。
どちらかというと、青い。
きれいな海の中を自在に歩き回っているような錯覚すら覚える。
氷柱があちらこちらに立っていて見通しは悪い。壁のように連なっている場合もある。
だが、人がいない。
人がいる形跡もない。

「ここにいるのか?」
「いるよ。もっと奥」
人の子は顎をしゃくった。
「原始の八咫鴉と獄吏以外にいないのか?」
人の子は見たことがないといった。
本当にいないのかもしれない、と人の子は平然と言ったが、そのあとがまずかった。
「あとは……凍っちゃったり凍り付いたりしてそこらへんに転がってるのに気付いていないだけかもしれない」
「嫌なこと言うな」
「可能性だ」
可能性と言われても、そんなこと言われたら塊や大きな柱を疑ってしまう。
怪談ってそんなものかもしれない。
人の子は勝手に奥に進んでいった。