彼岸花の咲く川で
7.地獄のはなし 01かなり降りた気がするが、よくわからない。
疲れて、途中で休憩した。
崖は触れるとかなり冷たい。
「へっくし」
結構寒い。
人の子は慣れているらしく、涼しい顔だ。
禁域はどれだけ寒いか思いやられる。
人の子が視線を寄越した。思わず言っていたらしい。
「凍土」
「とうど?」
「氷点下だ」
「は!?」
何故だろう、めまいがした。
「俺凍死しちゃう」
「まあ何とかなるんじゃないの?」
布の1枚や2枚くらいはあると思うよ、と人の子は言うが、氷点下は布でしのげるのか。
「あと3分の2あるんだから、慣れる」
「3分の2なの、これで」
「折り返しがあって、そこで半分」
まだ折り返しについていないから半分未満ということだ。
「ショートカットしたいならどうぞ」
しれっと階段先を指差した。
転がり落ちろ、ということか。本当に死ぬ。
「ま、それが嫌ならせっせと歩くことだ」
人の子は一人立ち上がるとさっさと階段を下り始めた。
どうやら慣れているらしい。
俺は重い腰を上げるとぐったりとまた階段を降りはじめた。
折り返しから先は岩壁に掘られた穴の先だった。
ここからは冗談抜きで寒い。
澪実の吐いた息が白くかすむ。
中は意外と明るい。
隙間や溜りに氷が張っていてきらきらと光をはじいている。
奥はぼんやりと明るい。
動く影は人の子だ。
氷で転ばないように注意しながら、その影を追った。