彼岸花の咲く川で

5.人の子のはなし 03
「ちなみにお前、どこまで行ったことあんの?」
「入れるところは全部。暇だし」
船尾の方に腰かけた人の子は、河を覗きながらそう答えた。
「じゃあ無間地獄も」
「あるよ。原始の八咫鴉だろう」
ご明察、と俺は口の中で呟いた。
「先にどんな状況か聞きたいんだけど」
「見た方が早い。そんなに衝撃受けるような場所にはいないから――ああ、賽の河原だ」
ひときわ河が澱んでいるあたりの対岸にぼんやりと鬼火とと動く影がある。
「へえ、あれが」
賽の河原にいるのは自殺した未成年だと聞いている。此岸であるからには見張りがいるはずだが――何だあれは。

のっしのっしと歩く、影。

「牛?」
「いや、サイ」
「サイ!?」
人の子は頷く。
「サイだ。直に見たから。あそこ石に交じって雀牌とかサイコロ転がってるし。大かた看守が遊んでるんだろ」
「……いい御身分で」
「ホントの牢名主はサイだから、たまにブッ飛ばされてるみたいだけど」
ブッ飛ばされたあとは考えないことにした。

賽の河原も通り過ぎる。
冷えた空気に熱が混じる。
河の両側にそびえる門。
河の中に立つ、立ち木。
微かに鉄錆臭がする。

「…………ここか」
「ああ」