彼岸花の咲く川で

4.光のはなし 02
下流域の舟守のなかに光という、古参でかつ無駄に有名な人物がいる。
金髪で色白、常に化粧がきまっていていかにも女の子女の子とした服の――男だ。
要は女装趣味が有名な奴なのである。
そして悲しいかな、澪実は「お気に入り」なのだ。
……逢いたくない。
渡し場を通るころには何処からか嗅ぎつけてきてやってくるのだろう。
世話にもなった先輩だけに追い払い難いし、珍しく怒ろうものなら――これがとてつもなく恐ろしいのである。
澪実も一度で懲りた。できれば今後一切同じ職場にはなりたくないと思っている。
ついでに、下流域もあまり担当したくない。自殺・鬱・薬物がわんさかやってくるのが下流域なのだ。
そして光は嬉々として下流域を300年担当している。
俺には理解できない。
そしてそいつらのカビの生えそうな話や気が滅入る話や発狂の挙句支離滅裂の話を聞かされるのだ。
光はそれが下流域の醍醐味だという。
まったくもって、俺には理解不能。

理解不能理解不能と口の中で繰り返しつぶやきながら、澪実は川を下り続けた。