彼岸花の咲く川で
4.光のはなし 01霧と共にゆるやかに流れ下る川に船影が浮かんだ。
その船影の主は、派手にため息をついた。
澪実である。
澪実はうんざりとため息をつきながら、担当区域外の川を下っていた。
「卓の奴め」
ぼそりと呟く。
10日ほど前、卓という同期の管理官に呼ばれて酒を飲んだが、要は都合よく仕事を押し付ける先として澪実は呼び出されていた。
逃げ道をふさがれしぶしぶこの仕事をすることになった後になって、閻魔王陛下から直々に任命書を受けとり、澪実は『禁域』に送り出された。
「ああもう!」
出発してからずっとこの調子だ。
つまり、3日間だ。
その3日間、舟を漕ぎながら澪実は悶々と『禁域』『大禍』『原始の八咫鴉』のことを考えていた。
正直、自分がそんな大事にかかわる仕事をしている実感がわかない。
ぼんやりとした頭で、さっきやっと中流域の渡し場を通過した。
どうも噂に尾鰭が生えて泳ぎ回っているのか、中流域の連中には知られていた。
まだ仕事は始まったばかりなのに、既に嫌気がさしている。
たしかに卓と話している間は好奇心が疼かないこともなかったが、所詮野次馬である。
なんでこんなことになったのか。
澪実はまたため息をついた。
さらにもう一度。
これから通過を余儀なくされる下流域はいろいろ行きたくない場所がてんこ盛りなのだ。
そしてこの先に見えてくるはずの下流域の渡し場は、冗談抜きで逢うのが嫌になる奴がいた。
「光の職場、か……」
そう呟き、俺は一人、がっくりと肩を落とした。