彼岸花の咲く川で

3.卓のはなし 05
俺は思わず身を引いた。
『禁域』とは彼岸が管理している八大地獄のうちの八番目、無間地獄のことである。

「確かに誰も邪魔しないけどさ……普通鬼門を封印してくれてる人を『禁域』に置くか?」
「ある意味最大のVIP待遇だよな。しかも本人の希望だって」
悪趣味すぎて俺は無理だ。
「そんでだ」
原始の八咫鴉にあきれ果てている俺に卓は一向にお構いなしだ。
「それ調べてる最中に陛下に見つかってさあ」
「え……?」
陛下とは閻魔王のことだ。あのかたにそれを見つけられるとは……。
「それでさ、『そういえばしばらく様子見にも行ってないな。お前、誰か適当そうな役を立てて様子見に行かせろ』と仰せ」
「お前まさか、俺に行けとか」
「よくわかってんじゃん、澪実。お前行け」
「嫌だよあんなとこ!!お前が行けっ!」
俺足回りがないからな、と涼しい顔で言われる。
「じゃあなんで俺なんだよ!他にもいるだろ!?足回りのある奴!俺より適任な!!」
机に手をついて反論するが、もはや行かせる気満々の卓は理由を指折り数える。
「足回りがあってかつ、報告の関係上ここに近い。見た目が威圧すぎず堅物すぎず軟派すぎず、俺が動かせる人材の中で欠けても困らない奴……って言ったらお前だろ?」
「俺!見た目思いっきり軟派!」
「その程度ならそれなりにまじめに作ってれば誤魔化せる範囲内だ。さすがに口ピだの鼻ピだのを行かせるわけにはいかないし。お前茶髪なだけだ」
口約束が不満なら、陛下に掛け合って辞令を書いてもらってもいいぞ、と卓はいっそすがすがしい笑顔で言う。
その笑顔も俺にとっては邪悪な仮面でしかないが。
「お前断らせる気ないだろう!!」
「お、引き受けてくれる?ありがたいね、よろしく」
「引き受けるなんて誰も言ってねえー!!」



いくら吠えても結局俺の負け。
来月一日から帰還日まで、俺は持ち場を離れることになった。

畜生卓の奴、一生根に持ってやる。