彼岸花の咲く川で

3.卓のはなし 03
「それでさー、あんまり静かなものだから気味悪くって」
俺は酒を飲みながら、この前の応援要請の話をした。
「仕事が楽でいいじゃないか。こっちは大変だったんだぜ。――そうだ」
卓がグラスを置き、軽く身を乗り出した。
「お前、今の区域に少し飽きてきたろ」
俺は卓に押されたように、少し身を引いた。卓の顔が何かを企んでいる。
「確かに飽きてるけど……お前何企んでる?」
「企んでるんじゃない。ひとつ思い出したことがあるんだ。どうだ、酒の肴に話に付き合え」
「聞くだけだぞ」
わかったわかった、と卓は笑っている。
「お前、原始の八咫鴉の話は知っているな?」
「名前くらいなら」

――原始の八咫鴉。

彼岸の住人で知らない奴はモグリか新人といわれる有名人物。
話では幼少期に一度死亡したが、その身に持つ力が強すぎたため蘇った妖異である。

蘇った生き物は此岸のものでも彼岸のものでもない。
一度死んでいるため、二度死ぬことがないからだ。
そういう意味では澪実も卓も、彼岸の住人なら皆同じことだが、原始の八咫鴉は此岸に『蘇った』ために異質である。
大昔にあった『大禍』により彼岸の果てに落ちたと聞いている。
そして若造呼ばわりで現場仕事の澪実では、それ以上の話は聞こえてこない。
その原始の八咫鴉がどうかしたのか。