彼岸花の咲く川で
3.卓のはなし 02卓はこの通り質が悪い。ついでに出身が上級の武士なのでプライドも高い。
最初のころの卓は、それはもう素晴らしい性格をしていた。もちろん悪い意味で。
口を開けば嫌味皮肉の雨霰。俺は「舟漕ぎ坊主」とか呼びつけられる始末。さすがに今ではまるくなったが。
口癖は「お前は馬鹿か?」と「その頭はよくできた飾りものだな」だ。
俺は実際、頭はよくなかったから毎日言われた覚えがある。まあ頭がよかったら、今頃船頭なんかやってないが。
――それにしてもこいつ、本当に性格丸くなったよな。昔がひどすぎたんだけど。
そんなことを考えていたら、卓が開け放った扉に額をぶつけた。
「大丈夫か」
視線は冷たいが一応お義理のように聞いてくる。
「う、まあ……ちっと腫れるかもだな」
「よかったな、その出来のいい飾り物にひびが入らなくて」
「そっちかよ!たまにはほかの言い草はないのか!」
口癖もいまだ健在らしい。これを素で言っているんだからうそ寒い。
卓は「ん?」と怪訝な顔をした。そして一つ頷く。
「そうか、他の言葉がいいか。なら前言撤回だ。その中身のない頭がもっとパーにならなくてよかったな」
「ちょ、おま……」
俺は口をパクパク開閉した。俺の頭は空っぽじゃないのに、いくらなんでもそれはひどい。
しかもそのあとに「いや、むしろもっとパーになったほうがそれ以下になることがなくていいか?」などと一人言っている。
「まあお前をこき下ろすのはあとでいいか。準備手伝え」
「……はいはい」