彼岸花の咲く川で

3.卓のはなし 01
このごろ仕事が少なくてうだうだごろごろ暇つぶしをしていたら、彼岸から俺にお呼びがかかった。
――俺何かしたっけ!?
澪実は心あたりがないので舟の上をうろうろしていると余計に不安が募った。
「と、とりあえず行こう……。説教じゃないかも知れないし……」
その可能性はわずかだが。



「ううー、入りたくないよう……入りたくないよう……怖いよう……」
彼岸の住人と死者を管理する役所の植え込みの影で、今俺は入るのに二の足を踏んでいる。

「お前そこで何やってんの?」
「うわっ!!」



いきなりのことに澪実は飛び上がった。び、びびった……。
「卓……驚かせんな……」
そこには同期のデスクワーク要因がいた。
卓――俺と同じ事件で死んだ一見友好的でホストっぽいがしかし、蓋を開ければとんでもないドSの男だ。
「俺呼び出されてさ……」
「そりゃそーだ。俺が呼んだんだ。酒飲まね?」
「てめぇか!しかも部下使って呼び出して酒とか!!」
思わず勢いよく立ち上がってまくし立てる。
「心当たりねぇのに呼び付けられて説教かとか心配した俺がばかみてえじゃねえか!」
好き勝手に吠えていたら、俺は卓が笑ったのを見逃した。
「へぇ、心当たりなくて心配したんだ?お前、そんなに経歴クリアだったっけ?」
この前女の子脅したそうじゃん、と卓は刺す。
「お前も下手だよなーあんなことしか出来ないなんて。お前今度からクロロフィルとか持ち歩いた方がいいんじゃね?」
「ちょ、待て!クロロフィルは禁止だろうが!!」
「阿保かお前。俺は暴れる時には自白薬だ。ばれなきゃなんでもない」
「確信犯だー!!」
俺が騒ぐと、「ああもううるさいな」と卓は嫌な顔をした。自分から振っておいて。
「ってか酒の時は今度からそう言え。まぎらわしい」
「まぎらわしくて当たり前じゃん」
卓は役所に体を向けて言い放った。
「だからわざと部下に呼び出しだけさせたんだから」

相変わらず質が悪い男だ。