彼岸花の咲く川で
2.澪実のはなし弐 01「おい、若造」
「はいはい若造ですが何か?」
跳ね起きる。
その日も俺は趣味かつ日課の昼寝を満喫していた。
彼岸の住人で「若造」と呼ばれるのは、俺を含めて2人しかいないのですぐわかる。
牛頭がいた。
ちなみに澪実の舟は川の真ん中にある。
だが牛頭は舟を覗きこんでいる。
いつも驚かされることだが、デスクワークの連中は水面を歩く。
舟を持たない連中の特権だ。
俺は舟がひっくり返ったら普通に落ちるよ。
あわやピラニア餌になりかけたことは過去に3回。
新人研修中のことだ。思い出すと未だに肝が冷える。
「どうしたの?」
牛頭が来るときは9割方良くない話を持ってくる。そのせいで自然と構える形になる。
「明日、団体が来るんだが……救命艇が多くて人手不足だから手伝いに行ってくれんか」
拍子抜けした。
「いいよー。いつ行けばいい?」
「今日の日暮れくらいに」
「オッケー、お疲れさーん」
牛頭見送ってから小さくガッツポーズをする。
小旅行だ。
船頭って職業は、基本的に持ち場が決まっているので飽きる。
一応移動はあるものの、条件は「百年間始末書を書いていない」人。
俺は新人の頃始末書三昧だったので、後30年は先の話だろう。
ってことで、目を閉じていても舟を漕げる程度になるくらい動きのない仕事だ。
だが例外がこれだ。
他地域からの応援要請。主に団体を担当する区域から。
団体は20人以上で仕事となり、普段は5人しかいない。
対して、今回は救命艇。
何艇かは知らないが、応援要請が入ると言うことは少なくないのだろう。
――楽しみっ!
だがその時には、あんなことになるなんて誰も思っていなかった……。
こら作者っ!勝手な事言うなっ!!