彼岸花の咲く川で

1.澪実のはなし 04
することがないから重りを川の中に投げ込んで船底に寝そべった。
あんなぐれてる若い奴らを見る度に、生きてた頃を思い出さずにはいられない。
俺だってぐれてたし、突っ走っていた。百年以上前の話だが。
国が倒幕と佐幕で揺れ動いた時代に俺は育った。
くだらないことでぐれてた。
周りなんて見ていなかった。
それを振り替える機会は、生きている間には訪れずに終わった。

俺は一番荒れていた時に死んだ。
つるんでいた連中と仲間割れした日の帰りに、橋が崩れた。
そして、万人と同じ所にたどり着く。
俺の最大の不幸――もしくはある種の幸運――はこの時訪れた。



『そっか、やっぱ俺、死んだんだ』
『え?だってほら、橋が崩れて』
『しかも一番高い所から落ちたら下には土台があったから。あー、これはもうムリだなーって』



――俺は未だに、死に際を克明に覚えている。
親兄弟の顔は20年くらいで思い返せなくなったのに。

死に際を覚えている死者は死ぬことを許されない。
人口にして、約10億分の1。
俺達は死に際を忘れるまで働き続けないといけない。
忘れることで赦される。
平均的に、500年かかると言われている。
その前に体が滅びることある。発狂することもある。
――俺はどれだろうな。
霧の流れを目で追っていると、綱がぎーぃ……と鳴った。