夢殿

静観者 09
足止めは強引だった。
勢いを失った身体は、支えもなくなってへたり込んだ。
目の前には、息を切らせた少年がいる。
だいぶ走ったんだろう。汗をかいていた。
「見え、そうだったのに…………」
「だめ」
彼はいつになくきつい声でそう言った。
絶対に翻らない声だ。
「これ以上やったら、本当に死んじゃう」
もう諭す声じゃなかった。
ああ、もうここには二度と来れないんだと、私は何となくわかった。
「最後……これで最後…………」
「その最後をやった時が、本当の終わりだよ」
付け入る隙もないように、その声が、何だか悔しくて――――自分の首を、絞めた。
でもその手も、強引に――
「だめだっ!」
――掴んで、ひき剥がされた。
はじめて少年の目を見た。きれいに澄んだ目だ。
でもそんなことを確認したのは一瞬で――抱きすくめられた。



あったかい。
驚いてしばらく茫然としていたが、最初に思ったことはそれだった。
お父さんにもお母さんにも、こんなことしてもらった覚えがなくて――何だか嬉しくて――何だか泣きたくなった。
生きている――そこに命がある――と言う事を感じた。
何だか泣きたくて仕方なかった。
泣いたら、私も生きてるんだって――私は生きている事を確かめたくて、死の影を探している――ことに気がついた。

私、生きてるか知りたかったんだ。
私、死にたかったんだ。

彼は、ただ背をさすってくれた。
やっぱり、その手はあったかかった。
「もうこんなところに来ないようにね」
声が詰まって返事が出来ないから、大きくうなずいた。彼の肩に顔を埋めた。

彼は最後に、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
もしかしたら私より上かもしれないと、その時思った。

あの日、あの坂に背を向けてから、あそこに戻ったことは――ない。