夢殿
静観者 06あんまり怪我はなかった。慣れたのかもしれない。
何か見えそうな気がした。
だから、もう一度やってみようと思って立ち上がったら、ふらついて、尻もちをついた。
いつの間にか、少年がすぐそばにいた。
何だかぐにゃぐにゃ曲がって見える。また三半規官が馬鹿になったみたいだ。
しばらく、その場をごろごろと寝転がっていた。
起き上ってみたら、もう大丈夫そうだった。
よし、リトライ。
そう思って坂に向かったら、少年に腕をとられた。
振り払おうとしたが、今度は両手だ。
「だめだよ。あざだらけだ。今日はもう休んで」
嫌だ、もう一回、私は行くんだ。
私は振り返りざまに、彼に平手打ちを喰らわせた。
結構派手に、痛そうな音がした。
それでも、彼は我慢して、手を離さなかった。
「だめだよ、おねえさん」
何だか無性に腹が立って、彼の喉に拳を入れた。
彼が酷くせきこんだ。手が緩んだ。
彼の手を振り払って、私は彼の首を思い切り絞めた。
彼は酷く苦しそうに顔を歪めた。
それでも、その目はどこか哀しそうだった。
なんだか、首を絞めているうちにわけがわからなくなって、彼を突き飛ばして坂を駆け上がった。
もう一度、もう一度わたしは転がるんだ。