夢殿

静観者 03
目が覚めたら、ベッドの上だった。
あちこちガーゼだらけだ。包帯も巻かれている。
起き上って鏡を見た。意外と酷くなかった。

あの坂は一体どこなんだろう。
私は一体どうやって行ったんだろう。
あの少年は誰だったんだろう。
坂を転がり落ちた後はどうしたんだろう。

ぼんやりとしていて、あまり記憶にない。
何となく、あの少年の声を聞いたような気がする。
はっきりと覚えていることは――何かが見えそうな気がしたことだ。
もしかしたら、欠片くらいは見えたのかもしれない。

でも、まだ足りない。
もっと転がらなきゃ。

わたしは見たいんだ。何を見たいのか知りたいんだ。
そうだ、行かなきゃ。行かなくっちゃ。あの坂へ。



どこをどうやってきたのか分からない。
学校が終わって、私は飛びだした。
とにかく、あの坂は今私の目の前にある。
そして――

「やっぱり、来ちゃったんだね」

坂のふちに腰を下ろした少年が、私を見上げた。
「……どうして」
「おねえさん、また来るような気がして」
彼は立ち上がった。
何故か私を見て哀しそうな顔をする。
「そんな怪我したのに……」
「でも、私は」
「どうして、おねんさんは――――死んじゃうよ」
ああ、何となく彼がいる理由が分かった。
彼は優しいんだ。
でも、私は見つけたいから、今日も転がる。
行こう。坂を転がり下りた先に。
制止の声を振り切って。

世界が――回る――――