夢殿

侵蝕屋 05
その願い、しかと受け止めました――

「…………?」
今のは、一体なんだったんだ。
5限目、英語のリスニングCDを聞きながらウトウトしていると、随分久しぶりのような気がする侵蝕者の声を聞いた。
その、願いとは。
――――あの女?
背筋にぞくりとしてものが駆けおりた。
秋山が不思議そうな眼で私を見てきた。
なんでもないんだ。私は自分にそう言い聞かせ、教科書に視線を戻した。
「それじゃあ、読んでもらおうか。28ページを――」



「いやぁ――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」



ざわり、と周りが騒がしくなった。
脳神経が焼き切れそうな、強烈な絶叫。
「何だ……?」
秋山は神経質そうな顔を歪めて廊下に視線を向けた。
怒鳴り声がした。隣のクラスだ。
保健の先生呼べ。おい、大丈夫か。そんな声だ。
隣で授業をしている教員のものだ。生徒の声は聞こえない。
むしろ、妙に静かすぎる。誰もが触れたがっていないというような。
隣のクラスから誰かが駆けだしていった。
それで止まった時間が動きだしたような気がした。
「席について自習していろ」
秋山はそう言い残すと、教室を足早に出て行った。隣に行ったようだ。
何だろう。私はミーに視線を向けた。
「ミー……?」
ミーは携帯を睨んでいる。
そして私を見ると、その携帯を投げてよこした。
「それ、そのメール」
「メール?」
私はミーの携帯を開いた。そこには受信画面が表示されっぱなしになっている。
隣のクラスの子だ。

おそらく、私はその文面を一生忘れない。



『あいつが倒れた』



けいれんスゴイ。泡吹いて白眼むいてる。
そんなことも書いてあった。
私は茫然としているうちに、ミーに携帯を回収された。マナの手に回る。
マナがどんな表情をしたかは覚えてない。確認してない。
何だ、何で私がこんなに混乱しているのかもわからない。
――都市伝説?そんなバカな。
都市伝説なんかで人が死ぬわけがない。そうだ、間の悪い偶然だ。
今に保健室に運ばれて、来週にはまたあの女は付きまとってくる。そのはずだ。

なのに、何だ、この嫌な予感は。

何だ――――?