夢殿

侵蝕屋 03
「……ということを、あたしは2組のコから聞いた」
「何それ」

知らないわよ、とミーは投げやりに答えた。
今まで私とミーとレイが話していたのは、あの女が言っていたらしい私についての発言についてだ。

要約するとこういう事だ。
あの人は性格が悪い。口が悪い。心が狭い。いつも邪険にされる。「イイ」という男子の目は節穴。私のほうが絶対可愛い。付き合ったら絶対に別れることになる。
将来はきっとずっと独り身。
いくらなんでもそこまで言われる筋合いはない。口が悪くて心が狭いのは認めるが。
「言っておくけど、他にもまだあるわよ。あたしとあんたとレイので」
ミーはグラスを空けた。
レイの表情は呆れから動かない。
私はファミレスのテーブルをトントンと指先で叩いた。
ミーがドリンクを持ってくると、その「まだある」話を披露した。

ミーについては、出しゃばり。口だけじゃないのか。キャリア主義で冷血。成績で人間評価している。モテなくて当然だ。不細工。付き合ってあげているのが分かっていない。人を舐めてる。馬鹿にして見下している。
レイについては、どうして友達がいるのかわからない。彼氏可哀そう。っていうか彼氏って騙りじゃないの。冷血、血が通ってない。話を聞いてくれない。協調性がない。団体行動が出来ない。格好つけてるつもり。
私はさっきのないように加えて、冷たいのは僻んでいるから。先生受けがいいのは媚を売ってるから。絶対に大学受験で落ちる。世間を甘く見てる。
よくもまあ、自分の事を棚に上げてここまで言えるものだ。

「ミー。これ教えてくれたコ、よく聞いてたね」
「途中でキレたらしいけどね」
そりゃキレる。レイがぼそりと呟いた。
「それにしても……」
「ん。ここまで酷いとはねー。だったら来るなって感じなんだけど」
「同感」
「それが分かる人間なら、あんなに迷惑じゃない」
レイのまったくごもっともな発言。
「ってか、いい加減あいつどうにかしないとやばいって。主にノリの精神状態とマナの体力」
「それは賛成」
「どうにかっていうか、失せてほしいんだど」
「最終目標としてはそこよね」
ミーが頷く。レイもその点については賛同した。



そうだ。あれから3時間ファミレスに居座って話してたんだ。
有効な策は何思い浮かばずに解散したのが、日も暮れた7時。
そして悶々としたまま帰宅して寝たら――あの夢をみた。

一体なんだったのだろう。
私は制服に着替えながら首をかしげた。
気にするほどのことではないと思えばそれまでだが……何だか引っかかる。鏡を前に考え込んでいたが、私はふと違和感を感じて振り返った。
「ヤバっ!」
時計の針が危険域を示している。朝食を掻きこんで走るか、抜いて行くか、という時間だ。
抜いてコンビに寄った方が早いし、身体に負担にならない。
とっさにそう計算すると、もう夢の事は忘れていた。