ボクと私と空中都市

1.猫の街 09
「あっ、レオ君。おはよう!」
街開きから6日、メロウは3日ぶりにレオと会った。
「今日はどこ行くの? 私は上層行こうかなって思ってるんだけど」
無視して歩き始めたレオを追いながらメロウは話しかける。
「それで、どこに行くの?」
階段までめげずに話し掛け続けたら、レオが折れた。
「…………図書館」
「あ、じゃあ上層まで一緒だね」
じゃあ今日は図書館のあたりでも見て回ろうかな、とメロウは一人呟く。
レオは無視して黙々と階段を上る。メロウも負けじと遅れることなく階段を上っていく。
地上層に出た。メロウは顔の前に手をかざす。
レオはフードをより深くかぶった。
今日は晴れているせいか、また人が増えている。だが初日ほどではない。
人の波をかいくぐるようにしてレオは街の中に入っていった。メロウも慌ててそれを追う。
レオは背が低いので、うっかり遅れるとついていけなくなってしまう。メロウはレオの後にぴったりついて歩いた。
その間も、赤レンガと、時折漆喰で白く塗られている壁は目に鮮やかで目新しい事もあり、メロウはきょろきょろと建物を見て行った。
「このあたりは高級住宅街かな」
「あとはオーダーメイドの服屋と宝石の飾りや、楽器屋。どれもオーダーメイドの店だけど」
「お金持ちってすごいねぇ……」
「奴らは金を使うのが仕事だ」
レオはそう言うと、図書館と時計台に面した広場に踏み込んだ。
露店がにぎやかだが、売ってるものが地下とは全く違う。売り子とやり取りしている客の身なりも相当いい。
可愛いワンピースの少女を横目に見つつ、メロウは露店を眺める。
いつの間にかレオは図書館に姿を消していた。
露店で飴を買い、のんびり舐めながら広場を巡る。
鼈甲の飾りのついた櫛や、銀線の飾りがついたルビーのブローチを売っている店。
アンティークほどの古い懐中時計や、新しく小ぶりな目覚まし時計を扱っている時計屋。
上品な日傘や雨傘を花のように並べて見せている傘屋。
薔薇で作った飾り輪を売り歩く人。
街開きで情報紙を飛ばすように売っている新聞屋。
飴や砂糖菓子を売っている菓子屋。
道にテーブルを出しているカフェ。
メロウは情報誌を一枚買うと、カフェに入った。果物のたっぷり入ったお茶を頼み、情報誌に目を通す。
カッツェの街の情報、ガミルの街の情報、街のニュース。
どうやら、今カッツェの街では魔術具が飛ぶように売れているらしい。確かにガミルの魔術具街は品ぞろえが悪い。
ガミルの街は反対に、錬金術具が飛ぶように売れているらしい。
メロウはペラペラのその情報紙を読んでいたが、途中で読むのをやめた。
ニュース部分の見出しには「エロ魔術師を抹殺した二人組、未だ見つからず」と煽られている。被害などの詳細な情報は未だ聞くこと叶わず、ともある。
発生から10日も立ったのに、未だにネタとして探し求めている人がいるらしい。
出てきたお茶に口をつけながら「街開きしたのに……」とメロウは呟いた。
昼前のカフェは、そろそろ混み始めている。



新聞屋の情報集めをしている人が前より増えた。
メロウはふとそのことに気がついた。
今はまた図書館に行くというレオについて歩いているが、どうにも気にかかる。
「うー……」
「ボクの後ろで呻らないでくれる」
「だって……」
昨日の情報誌にも「エロ魔術師抹殺犯、未だ分からず」と煽り文があった。まだ引っ張っているのだろう。
ただ、気になるのはガミルで目撃情報あり、という一文がそこには添えられていた。
メロウはレオにひっついて歩きながら、視界の隅で新聞屋の動きをうかがう。
そんな中、かしゃりと写影機の音がした。
メロウがちらりと視線を向けると、こちらに向けられたレンズ。
何やらにやにや笑いながら「13日前にカッツェの20層で事件を起こされた方じゃないですか」と言ってくる。
知らない人間に声を掛けられたレオは、思い切り胡乱げな顔で男を見返した。
だが情報集めをする男は図太くたじろがない。それを認めたレオは、無視して再び歩き始めた。
メロウもみなかったことにして歩きだす。

「絶対あいつらだって!」
「追え!!」
不穏な掛け声。
レオはちらりと後ろに視線を投げると、何を躊躇する様子もなく駆けだした。
「待ってよ!」
メロウもレオについて逃げる。
その後ろを新聞屋たちが追い掛けた。