企画 2012/01/01
華衣 06――どこにいる?
比較的近くに居るような気がする。
気配がある。
夏葵は目を眇めたまま、境内を一巡りした。
人が多すぎると思った。
そのなかで、携帯のバイブレータ音に気が着いたのは偶然だった。
メールだ。
差出人は香葵。
それらしい姿が、授与所の横を通って裏手に向かったとある。
夏葵はすぐに授与所へ戻った。
奥の窓を叩くと、すぐに香葵が顔を出した。
「色は?」
「茶色。黄色はいない」
「わかった。裏だな?」
香葵が頷く。
確かに、呪力の残滓がある。まだ新しいものが。
「わかった。サンキュ」
夏葵は窓を離れた。
呪力は壁沿いに裏手へ続いていた。
裏山の入口付近は入ったことがあるから、何となく道が分かる。だが奥に行くとさっぱりだ。
――まあどうにかなる。
迷子になったら、ダダウンジングをすればいい。いざとなったら呪力を爆発させれば誰か駆けつけてくるだろう。
そう思って、夏葵は坂を上る。上がりきった先には、葉を落としきった枝と常緑樹が入り交じっている。
視界が悪い。色合いもだ。
茶色――あれは海老茶色か?
海老茶は裏山の色彩には見かけない。そもそも木々の持つ色じゃない。
それから、金糸だ。鍵となるのはその二つと、この呪力。
呪力は真っ直ぐ道を進んでいる。
夏葵の記憶が正しければ、この先は少し視界がよくなる。
そう思い出して茂みをかき分け――その先に求めた反射光を見た。
とっさにダッシュをかける。
向こうも音で気がついたのか、一瞬振り返り、駆けだす。
地の利は向こうにある。リーチの差はこちら。
触媒を用意する余裕はない。だが、一瞬だけ流れがこちらに向けばいい。
夏葵は走りながら呼吸を整えた。一拍できればいい。
「29の軍団を従える偉大な侯爵アムドゥシアス、奴を邪魔しろっ!!」
「うあっ!!」
先をかけていたそれが、根に足を取られてすっ転んだ。
そこまではよかったが――
「っわ!!危なっ!!」
夏葵の方も、頭上の古木の枝が落ちてきた。召喚を簡易化し過ぎた反動だ。
それでも夏葵は足をゆるめず、一気にそれに近づいた。
が、タッチの差で立ち直り、それが再度駆けだす。
「くっ……」
翻る衣をつかんだ。
本体の方はつかみ損ねた。
夏葵の手には、海老茶色に、金糸の着物。
驚いたように振り返ったそれは、黒字に白模様の着物をまだ纏っている。
「おまえっ」
それは憎悪の眼差しで正対した。
「かえせっ!それはかあさまのころもだぁっ!!」