企画 2012/01/01
華衣 059月末に下草を刈り、蔓草を払ったきりのせいか、想像以上に林の中は窮屈だった。視界も悪い。
鉈か鎌がほしい。
悠長に草刈りなんかしている場合じゃないのに、そう思ってしまう。
がさがさと音が響く。
どれくらい分け入ったのか。石灯籠の光はもう届かない。暗い。
冬の木漏れ日では、林の中は夕暮れのようだ。何となく寂しいものがある。
その中に、そぐわない色――明るい黄――が掠めるようによぎった。
――あいつだ。
利はそれが掠めた方に踏み出した。
追って行くうちに、黄色い着物をまとった姿が見え隠れし始めた。
子供だ。
黒髪の頭がひょこひょこと揺れている。
さてどうやって捕まえるか。
利は首を回して、唇を舐めた。捕まえるための選択肢は、そもそも2つしか持っていない。
生け捕りか、囲い込みか。
利は柏手を打つと同時に祝詞を呟いた。
「――汚穢れと云う濁悪は有らじと、祓い賜い清め給うと申す言の由を――」
「きゃう!!」
子供の行く先に結界を張ると同時に、素っ頓狂な声が上がった。
結界にぶつかったらしく、地面に座り込んで頭を抱えている。
「あいたたた……なしてこんなのこんたとこさあるって」
「……訛ってる?」
聞いたことのないイントネーションに呟くと、子供がぱっと振り返った。
「にいちゃん、だぁれ?」
どうやら警戒心もないらしい。
「俺はもうちょっと上の方に住んでるんだけどね。君も誰?」
「はなははなだよ」
「花?」
「はなだよ。はなころも」
どうも話し方が幼い。
「にいちゃん、なしてこんたとこさ?ここであったのべにだけなん」
「えーと」
理解するまでに一瞬の間があった。
「上の方で、君みたいなのを見た人がいたからね。君なのかな?って思って」
「うえ?あ、おやしろ?」
「そうそう、お社」
「あれはなじゃない。べにがした」
「紅?……紅衣?」
オウム返しに利が聞き返すと、花衣はうんっと元気いっぱいに頷いた。どうも危機感がない。
「じゃあ、その紅衣って子に聞きたいことあるんだけど、何処にいるか知ってるかな?」
「うえさいるよ。おやしろのもっとうえさ」
「裏山か……」
「……ねえにいちゃん」
いつの間にか傍に来ていた花衣が、背伸びして利の袖をつかんだ。
「ん、何?」
「べにさひどいことしない?」
「え?うん。俺は聞きたいことがあるんだ。それだけ」
一瞬不安そうな顔をしていたが、花衣はぱっと笑顔になった。
「じゃ、べにのとこさいこう!こっち」
利の袖をつかんだまま、花衣はひょこひょこと駆けだした。