企画 2012/01/01
華衣 04「ついに事が大きくなったか……」
対応した利の父――浅井悠――は心の底から嫌そうな顔をした。
見れば、利も似た顔をそっくりに歪めている。
「どうやってそれ、収めたの?」
授与所を朋也に預けたあかりが悠に目を向けた。
「まあ、ここの伝承の二つ三つを混ぜ合わせてな……」
「あれこそがここの霊験なのですよ、くらい言えばいいのに。嘘が下手」
あかりはそう伯父を切って捨てると、どうすると呟いた。
「ってか、誰出る?トモはここに常駐として考えて」
「あかりは駄目だ」
「お前は残れ」
いきなり、悠と利からあかりの差し押さえがかかる。
「何で」
「お前あれ持っていくだろう」
あれとは、あかりが常用している宝刀である。
「あれを祭壇から降ろすわけにはいかん。事が長引いた場合、お前には他の仕事もある。利、お前が回れ」
あかりの盛大な舌打ち。利はひとつ頷いた。
「俺も行く」
「夏……」
「香葵連れて行ったところで何の役にも立たない。俺が行く」
へこんだらしい香葵がうなだれる。わかったよここでまたこき使われてるよ、と拗ね始める。
「親父は?」
「俺が出られると思うのか、利」
利はふいっとあらぬ方を向いた。そのまま背中を向けて授与所を出て行こうとする。
夏葵も無言で、利の後を追った。
「俺、ちょっとコレは変えてくるから、先行っててくれ」
「わかった。この辺から始めるから」
準備で出っ放しにしていた地味な色合いの着物の帯を締める。
とにかく時間が惜しい。
「……利?」
「あ、兄貴。おはよう。飯あるから」
「おい、お前どうした――」
驚いて声を上げる慧は置いて、利は飛びだした。
夏葵は見たらないが、よくよく感覚を研ぎすませば、うっすら呪力の残滓を感じる。
どこからだ?
境内の雑踏に入る。人の気配。ざわめき。そのなかに、うっすら呪力が流れる。
人の波。鈍い流れの列。その中に――
「……あった」
本流だ。
下に向かって残滓が多い。
そう見た利は、冷え切った石段を駆け下りた。
境内を抜けると、途端に人が減る。
石灯籠の列が、境内と外との呪力の流れを作っている。
人は呪力の流れに沿って歩く。
だが、一つ。呪力の質が違う。
ここに来ると、特に分かりやすい。
流れは参道から外れている。
利は茂みをかき分け、林に分け入った。